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シンギュラリティと血を欲しがる世界~孫正義さんのARM買収とはなにか?

2016年7月22日

この記事では、ギチギチに硬い話をしております。
しかもこってりと長い悪夢のような話です(笑)

なんの話かというと、大きくニュースにもなっている
ソフトバンクがARM(アーム)社を買収した話に関係するのですが
新聞などに書かれている表面的な話をしても仕方ありません。


孫正義さんはなぜARMを買収したのか、
しかもなぜ今の時期なのか?

ここをぐっと読み解いていきたいと思います。

孫正義さんの思考プロセスを想像するだけで、やはり
この人は素敵なアウトローだなぁ。。。。と思う次第です。

そもそもARMってなに?

ARM(アーム)社はイギリスの半導体カンパニーでして
ファブレス(=生産工場をもたない)で営業利益が
売上の半分近く占めるイギリス人自慢の超優良企業。

まぁこれを日本企業が買収したのですから、イギリス人にとって
とても複雑な思いでしょうねぇ・・・

私は偶然にも社会人になりたての30数年前になりますが
当時ハードウェア技術者だったこともあり
そして今までずっとコンピュータと離れずの生活だったこともあって
半導体分野はとてもなじみのある、勝手がわかっている世界でもあります。

30数年前、半導体の王者はテキサス・インスツルメンツというアメリカ企業でした。
ここにインテル(intel)が参入してきて、今のWindows PCの分野で席巻している
おなじみの構造の出発点にもなっています。

ARMはこの時代はまだ存在していません。

ARMはファブレスで、モノではなくライセンスを販売しています。
少し専門的に言うなら、IP(Intellectual Property=知的財産権)を売っているビジネスです。

SoC(System on Chip)といって、チップ上にシステムの諸機能を網羅して
その回路情報をライセンス化して半導体を実際に作るメーカーに
販売しているわけですが、ファブレスなのでしがらみや制約が小さい。

超上流の、差別化がてきめんで頭を使うどころだけに集中できるわけです。
工場を持つと常に一定以上の稼働率が無いと赤字になります。

工場を持たず、超上流にあたる高度な機能設計部分で
他の企業が追い付けないようなノウハウに注力できており
スマホでは世界市場で98%のシェアを持っているほどの企業です。

スマホではもう完全なデファクトスタンダードなんですが
ARMという名前を知っている人は多くないと思われます。

Android(スマホ、タブレット)であれ、iPhoneであれ、人知れずひっそりと
ARMアーキテクチャによるチップが搭載されています。

それに、カーナビもここ最近はほとんどそうですね。
今、IoT(Internet of Things =モノのインターネット)が叫ばれて
だいぶたっていますが、私たちの身の周りのものはどんどんとネットにつながっています。
カーナビもウェアラブルコンピュータなんかも、生活にあるコンピュータ化された
デバイスではCortexシリーズのCPUが多く採用されていて、全部ARMのものです。

ARMアーキテクチャの最大の特徴は、思うに
”消費電力が非常に小さいうえに性能はそこそこ凄い”
ということじゃないかと。

インテルがどうしても落とせない牙城をARMは
独自のノウハウで築きあげ守ってきました。

汎用コンピュータの世界で覇者であったインテルは
IoTの分野、モバイルコンピューティングの王者であるARMと
激しくやりあってスマホでは完敗です。

まぁそういう経緯を経てARM買収となったわけですが
新聞などでも騒がれているように、買収額は3.3兆円!
ソフトバンク自体、これまで買収劇を繰り返して成長してきましたが
その金額がこれまでの業界常識を吹き飛ばしていることもあって
ソフトバンク投資家からもいろいろと言われているようです。

ARMは2015年度の利益(税引き後)が日本円に直すと
だいたい450億円程度です。

ここに3.3兆円でしかも、現在のところソフトバンクは借金大盛り状態なので
投資家としてはどうしても一言も二言もあって当然です。

『なんで?』って投資家ならば誰もが思うわけです。

シンギュラリティの世界

なにやってんの、孫さん!?

ということも、実は孫さんがもう10年以上前から言い続けてきた言葉に
真摯に耳を傾けると、何を考えているのかそれなりに理解できてきます。

ただ、それが正解なのかどうかは別問題です。
正解かどうかは、これからの歴史が判断するだろうと思います。

ここでは正しいのかどうかは関係なく、孫さんの思いというものに
迫っていきますが、そのキーワードがシンギュラリティ。

シンギュラリティとは、「技術的な特異点」
でもこれじゃなんのことかわかりませんね?

うんと簡単に言うなら、こう解釈できます。

"どこかある一点を超えた瞬間から
とんでもないことが起き始める"

その一点がシンギュラリティです。

このシンギュラリティが孫さん的には;

・2018年に予測しているハードウェアの能力であり
・コンピュータのIQであり
・30年後のロボットの数

ということになります。

このうちハードウェア能力、コンピュータのIQについて
さくっと補足しておきます。。。。

人間の脳は、シナプス同士の間で信号のやりとりがなされていることは
周知のとおりでして、1か0か、ONかOFFという2進数で表現可能です。
これはハードウェアで置き換えるとトランジスタの数に相当します。

20年前に、ちょうど2018年頃にCPUチップのトランジスタ数が300億個に達し
人間の脳を超える、ハードウェア的に超えていくと予測されていて
今もだいたいその頃じゃないかと指摘されています。

そこがシンギュラリティであって、以降は爆発的に差がついてくる
と予想されています。

アナログ的にじわじわ賢くなるのではなく、30年後に100万倍の差がつくと。

人間のIQは普通人が100程度で、アインシュタインクラスで200程度だそうですが
30年後にはコンピュータのIQは10,000になっていると孫さんは言います。

コンピュータのプログラムも誰かが書くわけでなく、
人間が五感を通じてさまざまな学習をしていくのと同じで
さまざまな膨大なデータがクラウド上に蓄積され、
ディープラーニングして
勝手にどんどん賢くなっていくと予想されています。

そうなると、いったい私たち人間はどうなるのでしょうね?
まじに、ロボットに隷従する時代がやってくるのか?

命令されなくても四六時中べったり頼ってしまいそうです。

ポケモンGOレベルで、大騒ぎし社会問題化しそうな状況ですしね。
交通事故もまじ増えるはずなので、
内閣サイバーセキュリティという言葉もいきなり出てきました。

私は、映画ターミネーターの世界を思い出さずにはいられませんが
孫さんは楽観視しているようです。
人間はもっと楽になると彼は言っています。

そのあたり、ご興味あれば孫さん自身が語っている
こちらのページには詳しく載っています。

ソフトバンクアカデミア特別講義 「Singularity~情報革命が導く世界~」 | ソフトバンクグループ株式会社
ソフトバンクアカデミア特別講義 「Singularity~情報革命が導く世界~」 | ソフトバンクグループ株式会社

ソフトバンクグループ株式会社(代表取締役 会長兼社長執行役員:孫 正義、英文社名:SoftBank Group Corp.)の公式サイトです。当社の理念・ビジョン・戦略、企業情報、株主・投資家(IR) ...

group.softbank

ここで再びARM買収に戻って考えてみると、
シンギュラリティ時代に飛躍的に成長する筆頭企業が
ARMであると目をつけたのでしょう。

この思いを、今は去ってしまった
元代表取締役副社長のニケシュ・アローラさんと共有していたようです。

アローラさんとは、これだけではなくソフトバンクを成長させ続ける戦略でも
一致していたとのことです。

それが・・・・

ソフトバンクは新しい血が欲しい・・・

アローラさんはこう述べていました。

『ソフトバンクグループの戦略は、われわれが若くなる代わりに
毎年優れた起業家を探して、彼らの情熱や創造性に投資していくことです。』

孫さんも全く同じように考えていました。

つまり投資の見返りに、新しい血をどんどんと採り入れて、
300年後も若くあり続けるということを狙っていて
大型の買収を繰り返し成長してきたソフトバンクは
もともとそのつもりでそうしてきたに過ぎません。

ARM買収は、シンギュラリティ時代において
つまり生活のことごとくがIoT化された時代において
利用されるハードウェア根幹テクノロジーを握っておきたい
という意味だと私は理解しています。

目覚まし時計も、タイマーをセットするのではなく
主人の生活パターンを自ら学習し、適切なタイミングで必要に応じて
起こしてくれるようになり、そこらへんのコップや茶碗もIoT化されてしまうと。

コップや茶碗がIoT化されてどういう意味があるのかというと
中に入っている成分やおいしさとかを計測し、使う人へ意味のある情報を
提供するということですが・・・ほんまかいなと思ってしまいます(笑)

孫さんは10年前からARMを狙っていたようで
思いつきでARM買収でないことは明らかですが
それでも『なぜ今なのか?』という疑問が湧いてきます。

私はその背景には、やはりイングランドのEU離脱問題が
大きく関係しているのではないかと推察します。

つまりEU離脱するとARMはどうなるか?ということです。

何が起きるか正確には誰もわからないのが実態かもしれないですが
いろいろと予想できることはあります。

・経済がガタガタになっていく混乱に乗じて誰かが買収する
・ARMの優秀な社員が引っこ抜かれて空洞化する

そうなると孫さんとしてはたまらないはずです。
秋波を寄せてきたのに、誰かにブンドリされてしまう、
或いは優秀な新しい血を入れたいのに、古い血しかなかった、とか。

しかし投資家ならずとも普通に考えつくこととして
ARMは30年後も健在でこの分野のリーディングカンパニーなのか?
・・・そんなことは誰もわかりません。

ここが大きなギャンブルになると思いますが、
それをわかったうえで買収を決意した。。。。

孫さんは、当然ながら考え付くあらゆるファクターを天秤に乗せて
判断したはずですが、投資家含めた一般の人が買収額3.3兆円を
そうかなるほどと無条件に首を縦に振るのは難しいでしょう。

それでも私は、孫さんの思考プロセスをさすがだなと感心します。
これは抽象化思考の極致でもあると思えるのです。

2年、3年先までのゆるやかな成長ではなく
はるか先の未来に視点を置いているところです。

視ているのは、シンギュラリティの予測とその先。

視ているものが違う。。。

実に素敵だなと感じ入る次第です。