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AI BLOG

ChatGPTを予言した書『AI 2041』~AIと私たちの未来を今知りたい人が必読である理由

2023年5月29日

最初に声をにして言っておきたいことは、
ChatGPTや他の生成AI(テキスト、画像、動画の生成AI)はじめ『AI』に関わっている人はもちろん、
なんとなく関心があって関連する教材を買おうかどうか迷っている人は、
迷わずこの本を読むことをお勧めします。

これから世の中はどう動くのか、そして自分はどう動くべきかの洞察を得るという点でも、
先にこの本を読んでおくほうがおそらく何倍も有益だと思います。
(しかも"今ある発展途上のAI"を担ぐ商品に目移りしている方にとっては、
 たった1/数十~1/100くらいの価格で手に入る驚くべき情報に値しますよ。)

この本は、日本語版が2022年12月10日発売、原著である英語版
『AI 2041: Ten Visions for Our Future』は2021年9月にリリースされています。

ChatGPTが世を賑わすようになったのは2022年11月以降であり、
その出現を予言した書としてもつとに有名となりました。

私は2022年末に即買いして年末年始期間で一度読み終えたあと、
今月再度気になって二度目を完読しました。
その勢いでこの記事を綴っております。

日本語版の正式名称は「AI 2041 人工知能が帰る20年後の未来」となりますが、
以降は単に本書を『AI 2041』と略して述べます。

AI 2041~AIのプロ中のプロによる近未来の予測本

AIの仕事から離れてもなぜかそこに連れ戻される日々の私は、
『AIを知ってる』、『AIが絡むビジネスを提案し売る』そこらへんのビジネスマンに過ぎません。

日本人にもAIのプロフェッショナルはそこかしこにいるにはいて、
さすがだなぁ~と感心するレベルの人に出会うこともありますが、
それでも日本のAI業界は世界レベルで唸らせるまでには遠い・・・と感じることも多くあります。

私が企業活動を通じて実感しているAIという世界でのトップランナーは、
1位走者がアメリカ、2位走者は中国です。

私が仕事を通じて得るAI技術情報のオリジンは
アメリカ発、もしくは中国発ばかりです。

次にイギリス発の話も聞きますが、世界に通じる
日本発のAI技術というのは今のところほとんど聞いたことがありません。

『AI 2041』は2人の中国人によって書かれた本です。
しかも凡庸ではなく、飛びぬけてすごい中国人です。

2022年12月に発売後即購入した『AI2041』

『AI 2041』は、あと20年足らずの近未来の社会を、
10篇のストーリー(小説)と各篇に詳細な技術解説がセットになった本です。

ストーリーは現実かと見まがうほどの別格クラスの作風であり、
技術解説はそのストーリーが荒唐無稽な物語ではなく、
実現しうる証拠としての情報に満ちています。

さらに重要なことは、
誰が書いたのか?
という点です。

ひとりは、カイフー・リー(李開復 Kai-Fu Lee)氏。
Apple、Microsoftの重役を経て、Google中国の社長だった方です。
しかもバリバリの人工知能学者
この方の技術解説は申し分なく、第一級品だとすぐわかりました。

もうひとかたは、チェン・チウファン(陳揪帆 Chen Qiufan)氏。
この方もGoogleに勤務しながらSF作家としてデビューし、
数々の受賞歴を持つ気鋭の作家であり、サイバーパンク的な作風から
『中国のメル・ギブスン』と称されているそうです。

私は彼の書いたストーリーを読んで鳥肌が立つくらいに、
テクノロジーへの精通と、生き生きとした主人公、そしてあまりに身近過ぎるテーマに
目が離せずプロのSF作家として敬服するのみでした。

分厚い560ページを一気読みさせる10篇のストーリー&技術解説

日本語版で表紙等を別にして555ページ(全560ページ)ものですので、
なにしろ分厚い本ですが、手にするだけで貴重な情報に溢れている予感がします。

4cmくらいの厚み、期待でわくわく!

10篇の説明の前に、この本の素晴らしいところは、
二人の著者がAIのもたらす未来を深く考察している点です。

AIというテクノロジーだけにフォーカスしているのではなく、
極めてリアリティに富むストーリーと合わせて社会的な影響
メリット、デメリットともAIプロ中のプロの言葉で掘り下げている点です。

だからこそ、ChatGPTを始めとする生成AIに興味を持つあなたに、
すぐにやってくる近未来の全体像を薄々でも感じてもらうために、
今出回っているAI教材以上にきっとインパクトをもたらすだろうと感じます。

ここでは、10篇のストーリータイトルとそれぞれの技術解説キーワードをご紹介。
この後で、私にとって最も印象深かったひとつを詳しく説明します。

『AI 2041』ポイント

  • 未来1ストーリー:恋占い
    テクノロジー解説:深層学習、ビッグデータ、インターネットと保険アプリケーション、AIがもたらす予期せぬ悪影響
  • 未来2ストーリー:仮面の神
    テクノロジー解説:コンピュータビジョン、畳込みニューラルネットワーク、ディープフェイク、敵対的生成ネットワーク(GAN)、バイオメトリクス、AIのセキュリティ
  • 未来3ストーリー:金雀と銀雀
    テクノロジー解説:自然言語処理、自己教師あり学習、GPT-3、汎用人工知能(AGI)と意識、AI教育
  • 未来4ストーリー:コンタクトレス・ラブ
    テクノロジー解説:AI医療、アルファフォールド、ロボット医療への応用、COVIDに加速される自動化
  • 未来5ストーリー:アイドル召喚!
    テクノロジー解説:仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、複合現実(MR)、ブレイン・コンピューティング・インタフェース(BCI)、倫理および社会的問題
  • 未来6ストーリー:ゴーストドライバー
    テクノロジー解説:自動運転車、完全自動運転とスマート都市、倫理および社会的問題
  • 未来7ストーリー:人類殺戮計画
    テクノロジー解説:量子コンピュータ、ビットコインの安全性、自律兵器、存亡の危機
  • 未来8ストーリー:大転職時代
    テクノロジー解説:AIに置き換えられる仕事、ベーシック・インカム(BI)、AIが苦手な職種、職業置き換えにそなえる3R
  • 未来9ストーリー:幸福島
    テクノロジー解説:AIと幸福、一般データ保護規則(GDPR)、個人データ、フェデレーテッドラーニングや信頼実行環境(TEE)を使ったプライバシー
  • 未来10ストーリー:豊穣の夢
    テクノロジー解説:豊穣、新しい経済モデル、貨幣の未来、シンギュラリティ

ChatGPT出現は、未来3ストーリーで非常に巧みに
『個人用AIコンパニオン』というアイデアで語られています。

どれもこれもが未来の想像なのに、
そうそう、わかる~!
という生活感を伴って迫ってきます。

単なるストーリーで終わらず、AI専門学者ならではの
ビビッドな解説で確かにこの10年、20年ではそうなるかも・・・
というほど切実で緊迫した予感がわくほどです。

このうち先ほど触れた、私にとって最も印象深かった話が、
"未来5ストーリー:アイドル召喚!"
でした。

この話をもう少し詳しく追っていきます。

『アイドル召喚!』~XR(クロスリアリティ)のもたらす未来

未来5のストーリーである「アイドル召喚!」は私のお気に入りです。
この未来5は、さよならコンサートの途中で急死したアイドルが、
熱烈な女性ファンによって"幽霊"として召喚される物語です。

XR(クロスリアリティ)は仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、複合現実(MR)を含めた概念です。
本物そっくり!にとどまらず、環境と違和感なく存在しており、
いわば没入型のシミュレーション技術と言えます。

このストーリー詳細は割愛します。
ここでお伝えしたいことは、XRが発達する未来はとてつもない倫理・社会問題を
内包しているという点です。

カイフー・リー博士のテクノロジー解説によると・・・

XRグラスやコンタクトレンズのようなデバイスを一日中装着するようになったら、
私たちの情報は常にデバイスの監視下にあることになる。
いいほうに考えれば、このデータをクラウドに保存して、必要に応じて参照できるなら、
無限の記憶装置をもったことになる。
客が契約違反をしたときも、接客時のやりとりが一言も漏らさず記録されているので証拠になる。
しかし、そんなふうに自分の発言を一言一句まで、見たものを一瞬もあまさず記録されたいだろうか?

(中略)

XRは私たちが生きる意味を再考させる。
人間にとって不死は数千年来の夢だったが、この技術があれば"デジタル不死"の可能性が出てくる。
(中略)
このようなデジタル不死やデジタル蘇生は、プライバシーや倫理的問題をいくつも引き起こす。
他人のデータを勝手に使ってバーチャルのキャラクターを作ったら、それはたんなる著作権侵害なのか。
そのキャラクターが社会的に不適切な発言や行動をしたら、それはただの誹謗中傷なのか。
有害な誤解を生じさせたら、あるいは犯罪を犯したら、誰が責任をとるのか。

AI 2041のテクノロジー解説より引用(なお赤字やアンダーラインはKENBOが追加)

あまりにこの「アイドル召喚!」のストーリーとテクノロジー解説が強烈だったせいか、
『AIとXR(Cross Reality)がネットと現実をなめらかに結びつける未来を「竜とそばかすの姫」で感じた話』
というタイトルでアニメ映画レビューを記事にしたくらいです。

ところで・・・
この「アイドル召喚!」に近い実話を多くの方々が数年前に目にし耳にしています。
またChatGPTはおろか、XRという言葉もあまり知られていない時期でした。

それはどこで?

はい、2019年のNHK紅白歌合戦で体感している、あれです。

あれ、とは・・・

はい、「AI美空ひばり」のことです。

この話、私が尊敬するジャーナリストでもある佐々木俊尚さん
文春オンラインでの寄稿がとても秀逸ですのでこちら(↓)をご覧ください。

「AI美空ひばり」に反発する人が多かった理由 「人格」とは何なのか? | 文春オンライン
「AI美空ひばり」に反発する人が多かった理由 「人格」とは何なのか? | 文春オンライン

昨年末のNHK紅白歌合戦に「出演」した仮想の美空ひばりについて、賛否両論がネットで渦巻いている。あそこまで再現できたのはすごいという賞賛がある一方で、「不気味だ」「違和感がある」と反発を感じた人も少…

bunshun.jp

近未来のXRとAI技術を使うと、2019年レベルとは全く異なり、
どこから見ても本物としか思えないAI美空ひばりが受け答えするかもしれません。

その状況をあなたはどう感じるでしょうか?
是非、佐々木俊尚さんの寄稿をご覧ください。

通じる人にしかわからないとは思いますが、
私は映画「ブレードランナー 2049」の登場キャラクターであるジョイという
主人公『K』を愛するデジタル恋人というか、AIとホログラムの女性を思い出してしまいます。

アナ・デ・アルマス演じるジョイは本当に魅力的でした。
ジョイは自分がデジタル上の存在、商品であることを自覚しつつ、
主人公のKを愛する気持ちを抑えられません。

つまりAIが『愛する』ことを十分理解しているうえで、
似た女性の肉体を借りてKを愛するわけですが、そこに
肉体の有無による人間とAIとの埋めようのない溝を知りつつ、
その溝を埋めようとする努力がなぜかとても切なく感じました。

『AI 2041』はともかくも、ChatGPTなどの生成AIブームでこの先いったい何がどうなるのだろう?
と気になる方にはぜひ一読をお勧めします。

従来スタイルのシステム開発のマネジメントをやっている中で
自然にAIプロジェクトにのめりこむようになった私は、
この書籍の未来予測度合いがど真ん中かどうかは言えませんが、

ハズレてはいない

ということは日常の経験からひしひしと感じます。
もしかして、ど真ん中で実現するとどうなるのか・・・・!?

言えることは、私たちが馴れ親しんでいるこの世界は
AIによって根本的に変容してしまうかも、
ということです。

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