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AI時代に『翻訳』や『動画編集』で生き残る人とは?

2024年12月8日

ふとしたきっかけでAIシステム開発に関わりもうすぐ11年目になります。
生成AI(ChatGPT、LLAMA、Gemini、Copilot、Sora、Midjourney、etc)が
突然一般の方の目に触れ、ここ2年かそこらの浸透を見てその破壊力に驚くばかりです。

AIという技術は他のテクノロジーと極端に違う点が存在します。
それはなだらかな進歩ではなく、非常に短い期間で階段状に進化している点です。
日進月歩ではなく、『秒針分歩』をこの業界に関わっている人なら実感しているはずです。

この記事ではAIのインパクトが大きいと巷で言われている翻訳業と、
ここんところよく話題になっている動画編集という仕事について、
実際のところどんな人が生き残っているのか?
どんな人がこれからも生き残れるのか?

というテーマで考えてみたいと思います。

翻訳と動画編集って全く違うジャンルながら、
AIの普及によってこれまでの仕事が無くなる、
少なくとも激減すると言われてきました。

ともに私の長年の友人なのですが、ある翻訳会社の社長、熟練の翻訳者、
そしてウェディングムービーなどイベント撮影編集を生業としている会社社長と話をして
ある共通点に気づきました。

いずれも社員10人以下の小さな会社です。

居酒屋で話を聞いてると、
「結局やっぱりこれだよな」
と思うところがありました。

AIが恐ろしいほどの速度で一定レベル以下の仕事を奪っていますが、
翻訳、動画編集で生き残っている人、これからも生き残れる人には
共通したある「スキル」があると感じた次第です。

しかし、残る人ちゃんといますが限られます
どういう人なのでしょうか?
そこにある共通点を掘り下げてみたいと思います。

『翻訳』の仕事はAIがすべてもっていったのか?

結論から申し上げますと、そうではありません。

生成AIの登場で、翻訳が得意とされているLLM(大規模言語モデル)の
代表格であるChatGPTなどにより、翻訳業は真っ先に消滅すると
言われていた職種のひとつです。

知り合いの翻訳会社社長と優秀な翻訳者がいて、ともに長い付き合いなのですが
その会社の売上も利益もずっと好調なのでじっくり聴いてみました。

この翻訳会社は特殊な機器を輸出する大手メーカーからの
請負業者としてその機器にも精通したプロの翻訳者を育てることでここまで来た、
というのが社長の口ぐせです。

この会社の翻訳分野はテクノロジー関連の一領域であり、
日↔英、日↔ドイツ語、日↔フランス語といったところです。
技術文書の翻訳であって、通訳ではありません。

社長に聞くと、単なる作業者に近いレベルのフリーランスとは
繫忙期でも品質担保が難しく取引をしていないと言っておりました。

理由は、
単純な翻訳作業レベルはAI機能を持つツールが代わりにやってくれるから
です。

検索して普通に出てくるレベルを考え無しに翻訳では、いわば作業レベルです。
このレベルであればとっくに生成AIが担っているのです。
ただし生成AIに完全に任せるワケにはいかないことも知っています。
(ハルシネーション=真実ではないことを平気で言うことや、
 セキュリティ面で学習されることを避けたい分野もあるため)

この技術文書の世界では、翻訳の元文書となる『A』という文書があり、
それを訳して『B』という文書を作るわけですが、実は悩ましい問題があるのです。

それは元になる『A』という文書が往々にしてレベルが低く、
『B』にするためには背景や文脈、関連情報を知る必要があるということです。
(例えば主語述語が抜けているのは当たり前、いきなり未知の用語が出てくるとか)

それなしで直訳すると、翻訳した『B』を利用する人にとって
意味不明の文書となり使えません。

翻訳者として事実上残っていて、クライアント企業から支持されているのは
グダグダで半ば死んでいるも同然の『A』というオリジナル文書から
背景や文脈、関連情報を調べ、結び付けて
生き返らせることができる人なのです。

こういう人は、AIの進化に取り残されることなく
クライアント企業の期待を裏切らず、
むしろAIにはできない『想像』を巡らせることで
AIを凌駕するポジションで居続けられるでしょう。

しかし、単純作業に近い翻訳レベルであれば
あっという間に淘汰されて何の不思議もない状況です。

それと『翻訳』と『通訳』は全然違う職種です。

『通訳』のほうは今でもリアルタイム的な感じでスマホなんかでも
一定のレベルに来ており、個人レベルでは困ったことがあっても
スマホにその機能をインストールしておけばかなりの用をこなせるはずです。

ここでの『翻訳』は例えば、医療、物理、工学、化学、数学等の
テクノロジーに関するもので技術文書の翻訳のことです。
これには日本語と英語だけではなく、さまざまなバリエーションがあります。

技術分野の誤訳は致命傷になる世界でもあり、AIやツールに任せきりにはいきません。
言うまでもありませんが、スピード感を保つ翻訳スキルが前提として必須です。

この分野でも、次の『動画編集』と同様に営業面
つまり顧客の信頼度をどういうふうに得ていくかが最大の難関だろうと思います。

『動画編集』の仕事は胴元も戦国時代!?

動画編集が昨今話題になっている理由には、SNSなどでの動画視聴者が
格段に増えてきた実態があると思います。

動画編集というと、単にイフェクトやトランジションをうまく整えて
全体で見栄えの良いものにする、という連想する方もいますが
そんなのは全くの素人でも簡単にできます。

そうではなく、案件にもよりますが制作(この一部に動画編集がある)だけでなく撮影もあり、
オープニング、テロップ、エンドロール、BGM(著作権も注意)、人物が映り込む場合のプライバシー対処、
もろもろの作業が発生します。

動画編集という用語には、結局は動画作成から完成まで含まれます。
そうでないと多くの場合、発注側の満足を得られないはずです。

よって『イフェクトやトランジションが得意です!』はダメ、というか全く足りません。
ここはAIやAIなしのツールでも元々得意分野のため、勝ち目はゼロです。

さて、動画編集といえば思い浮かぶツールはAdobe社のPremiere Proが筆頭ですね。
CG、ゲーム、イラストなどの世界でもAdobe社のツールはデファクトスタンダードであり、
知り合った学校の先生や生徒からもちょくちょく名前が出ます。

私自身はまったくセンスがないので、FilmoraCamtasiaを使える程度ですが
通常の教材作成プラスアルファレベルではこれで全く問題ありません。

クラウドワークスやランサーズあたりをチェックすると、動画編集は
基本は時間単価のようで約2,000円/時間(人によっては強気の~5,000円/時間)あたりが相場かな。

時間2,000円として、1日8時間、月に20日間ほど休まず作業して32万円/月。
これもひっきりなしに空き時間なしに受注できてのことです。

それよりも動画編集自体を個人で請け負うというより、
動画編集をスクール化(塾)にする胴元側のほうも乱立状態です。

デジハク、studio us(スタジオアス)、MOOCRES(ムークリ)、
ヒューマンアカデミー 動画クリエイター講座、DMM WEBCAMP・・・
続々と出てきます(リンクは当ブログでは掲載しておりません)

受講料は10数万円~100万円、200万円!というものまでさまざまです。
ちょうど専門学校でゲームやCG関係の学科で学ぶのと近いレベルです。

これを見ても明らかなように、動画編集市場は確かに裾野が広いようですが、
当たり前ながらスクール開催側のほうにはるかに大きな金額が流れ込みます。
(だからこそ生徒を集めるスクール運営側に関わりたい人が増えてきます。
 常に胴元のほうが儲かる仕組みになっていることをお忘れなく。)

100万円、200万円を受講料で払う覚悟があるという方はきっと、
なんとしてもこの動画編集という仕事で大きな収入を得たい気持ちが強いはずです。

ここからは前述の『翻訳』の仕事もフリーランスでもなくはないものの、
『動画編集』を仕事にする場合、発注側の人たちとのこれまでの会話から
共通事項が浮かび上がってきたので補足します。

継続した収入源とするには『法人化』がマスト

まず『翻訳』を継続的に安定受注していくには、
翻訳会社または翻訳案件を請け負う会社に入社するか、もしくは
自前で法人化して翻訳会社を運営していくのがベストです。
(これ以外に個人事業主でやるとなるとスポット案件のみで、継続は無理)

そもそも継続案件を翻訳で発注できる、という会社は
特定の業界、業種におけるプロの翻訳を必要する機器やシステムを
開発製造し海外へ輸出するか、もしくは技術商社として輸入するかに
ほぼほぼ限定しています。

テック系の大企業か、よほどの突出した技術をもったスタートアップ企業とか
いずれも発注元は限定されます。

こういった会社は翻訳品質だけではなく、継続受注してくれる
信頼できる相手にしか発注しません。

つまり最低でも法人格は無いと、その前提にすら立てません。

これと比べると『動画編集』という世界では発注者が中小~零細企業になります。
もしくは動画編集は任せたい個人です。

YouTuberの一部は、信頼できる相手へ協力を求めることもありますが
基本は全部ひとりで撮影、編集すべてやるのが普通でしょう。

翻訳と比べると出発点になる発注者がこじんまりした会社ばかりのはずです。

大企業が動画編集を発注する場合、発注先も著名なプロダクションであり、
契約形態も金額も相応なものになり、ここに個人事業主やフリーランスが入り込む余地はありません。

発注元が中小企業であっても、ライバルに勝ち自分を選んでもらうには
やはり法人化しておくほうが圧倒的に有利です。

選別される最低条件をとりあえずクリアしておく、というくらいのつもりで
単発ではなくずっと同じ仕事を続けたいなら、法人化はマスト(MUST)でしょう。

『十分なスキル』x『営業力』がものを言う

さてここが本題です。

翻訳と動画編集を生業とする人で、サバイバルを生き抜いた人、
今もバリバリやっている人には共通点があるように思います。

翻訳、動画編集それぞれに十分なスキルが必要なことは言うまでもありません。

どの程度のスキル?

顧客を十分に満足させられる技術スキル、です。

しかし、これだけではまったく歯が立たない思います。

AI時代に決定的に重要なことはなにか?
それは、営業力です。

売り込みの力だけではありません。

ここでの営業力を文章にすると;

「翻訳」や「動画編集」で生き残るための営業力とは

  • 顧客の『願望』『イメージ』を「こんな感じでしょうか?」とサンプルで具現化できる
  • そのサンプルをサクッとスピーディーに見せながら、繰り返し提案できる
  • 顧客の意見を尊重し、目標とする成果物に合意を取りながら進められるコミュニケーション
  • 成果物の品質が高い
    独自のセンスがあり、全体にも細部にもこだわりミスがほとんどない。
    またなぜ高い品質で提供できるのかその根拠もしっかりもっている。
  • 納期ギリギリではなく、「納期前」に納品できる安心感がある

順番に見ていきましょう。

まず①~③について。
翻訳や動画編集に限らないのですが、最終的な成果物について
仕様を明確に定義できる顧客はほぼいないのが現実です。

このことはソフトウェア開発なんかでもよくある話でして、
顧客は「こんな感じのもの」というイメージや願望はあってもそれを
言葉や形に落とすことは苦手な人が圧倒的に多いものです。

なぜかというと、昨今の国内大企業発祥のよろしくない伝統(慣習)のひとつが理由です。
発注元が「単なる企画屋」さんになっていて、自分で手を動かしながら考え、形にすることは止めて、
面倒なことを下請けに任せるやり方が沁みついてしまっているせいでもあります。

よって、サクッと作ってあげて
「お客さんのイメージはこんな感じでしょうか?」
と見せてあげることがとても大切なのです。

できれば間髪おかず、イメージをパッと見せてあげるようになるとベスト。
話を聞いた当日か翌日かには「イメージ合わせのため作ってみました」
というくらいのスピード感があるとライバルに決定的な差をつけられます。

コンピュータのシステム開発において「アジャイル開発」と呼ばれる手法があり、
近年の開発はほとんどの場合、この手法が混じっています。

アジャイル開発は試作品をサクッととりあえず作ってみて、
方向性などを確認しつつ、その試作を何度か繰り返しながら完成に繋げる方法です。

それと同じことを、納品までに何度も繰り返し、
最終的に顧客の考えているものに近づけていくアプローチです。

何度も、というのは2回、3回という数に限らず、
顧客が安心して進捗を任せられる頻度といったもので
疑問点や不満な点をつぶしていく作業です。

動画編集だけではなく、翻訳でも同じことが言えるのを
翻訳会社の社長と話していてわかりました。

はっきり言って技術面よりも、こういった顧客イメージを確認するために
コミュニケーション能力をフル活用していくことが一層要求されます。

ここまで徹底してこそ、やっと顧客の信頼度も上がり
「この人にこの先も頼んでみよう」
という気持ちになるのです。

次に④の高品質について。

品質という言葉には広範囲ながら、ユニークなセンスがあること、
細部をおろそかにしないことなどいくつかのファクターが包含されます。

ライバルと同等以上のスキルを持つ、ということは
売り込みのための条件にもなります。

使うツールがあれば、他の誰よりも熟知することです。
顧客から「ここはどうしてもうまくいかないがアイデアない?」と聞かれたら、
使うツールによっては詳細を知っているからこそ解決できることがあります。

なお動画編集スクール(塾)で教えるのは、ツールの使い方やコツなどであり
「継続安定受注のための営業」は教えてくれません。
(実践するのはあなたであり、営業は教科書通りにはゼッタイにうまくいきません)

仮に一発目だけ小さな案件を肩代わりして受注してくれるサービスがあったとしても、
それはあなたの望む、安定的・継続・それなりの金額の受注とはほど遠いものです。
結局、時間をかけてじっくり粘り強く営業活動するよりほか手はないのです。

すなわちマーケティングを自力で学びとる以外に活路はどこにもありません。

顧客開拓と信頼を獲得する難しさは経験でしか学べません。
口でいくら言ったところで無意味です。
何度もお客さんとのやりとりで失望させたことなどをフィードバックできてこそ
営業力は自然にアップするものです。

なお、技術(スキル)はAIが浸食する領域でもあるので、
AIにできないこと(問題を知り、問う=提案しながら形にする)
に力点を置く方が取引可能性大と感じています。

AIにできないことについては、こちらの記事(↓)でもお伝えしています。

生成AIができないことを知ると成功例の理由がわかり、未来はノーベル物理学賞の「AIの父」に教えてもらう話 - インフォレビュー(INFOREVIEW)
生成AIができないことを知ると成功例の理由がわかり、未来はノーベル物理学賞の「AIの父」に教えてもらう話 - インフォレビュー(INFOREVIEW)

この記事は、ChatGPTなど生成AIへの接し方について3つの観点で解説しています。ちょっと長いですが、AIの扱いで悩み迷っている人は是非ご覧になってください。 最初に「成功例」として、早くからCha

www.ifrv.net

最後の➄の「納期前」というのもポイントです。

納期は守れば良い、というのは大前提ですが
納期前に最終成果物を納品できる、
という姿勢は評価できます。

これは顧客にとっても
安心感、信頼感に繋がるのです。

極端に前倒しするのではなく、ギリギリではなく少しだけ早く納品する。

顧客は納品を待っており、また納品物になんらかの瑕疵などあっても
早く双方で確認できうまく決着できる余裕が生まれてきます。

「この会社(人)に依頼すればいつも安心!」
という気分にさせることが継続受注のキモにもなります。

いろいろ述べましたが、仕事として継続・安定的に受注できる営業力とは
クラウドワークスやランサーズでのアピール、SNS、広告とは全然別物なのです。

ましてや誰かが代わりに営業してくれる、なんてのも幻想です。
仮に小粒で一回きり、1万円かそこらの案件を紹介受けただけで満足できますか?
そのために100万円、200万円も払って大丈夫ですか?と逆に聞きたいものです。

動画編集で稼ぎたいと思ったならできるだけ
継続して受注でき、
満足できる金額をもらい
なんといってもマイペースで、
仕事したいはずですよね?

その要になるのは、あって当たり前の技術(スキル)とは別に
総合的な意味での営業力なのです。

このことは講義では決して教えられず、
自発的、積極的、しかし交渉不発も数え切れないほど含まれる
自分自身の経験以外では身に付きません。

翻って、AIには人の代わりに営業力を発揮した交渉は現状難しいです。
相手の心の機微を読みながら、なんて今はできません。

ただマルチモーダル化が進み、テキストだけではなくカメラ、マイク、
その他各種センサーで表情、声、心拍数、発汗、体温など測定分析を同時に処理する
ような状況になるとこれもまた変化する可能性があります。

ただし、なんだかんだ言ったところで
誰が責任を負うのか?
を突き詰めるとそこはAIに任せるわけにはいかないでしょう。

そういった点を含めてお客さんと交渉していけば
AIにそうそうやられてしまうこともないでしょう。

これもまたひとつの営業力の要素になります。