2025年1月末に突如としてAI業界に震撼が走りました。
中国のAIスタートアップDeepSeekの登場です。
この記事ではDeepSeekがどんな影響を与えているのか、これからどうなりそうかを考察してみました。
きっかけは直接関係はありませんが、以下のようなご相談をメルマガ読者様からいただいたことで
最近のAI動向で思っていることを整理したいと思ったからです。
「1000万円の開発費がかかったAIツールは買いですか?」
そのAIツールがなにものであるにせよ、この読者様は「1000万円」という数字が
大変に大きなように受け止めておられ、それだけで価値があるのではないかとご相談受けたのです。
ときどきAI関係でも相談を受けているのは、私が現在進行形で
AIのシステム開発業務(自動車関連で画像処理系)に関係しているのをご存じのためです。
最初に申し上げたいことは当ブログでも何度も触れておりますが、
AIというテクノロジーは階段状に日進月歩ではなく秒針分歩
というスピードで既存技術が上書きされているという現実です。
このような急激な変化を遂げつつあるテクノロジーは
AI以外にあまり今は思いつかないくらいです。
ChatGPTも表に出てきたのは2022年末頃なのでまだ3年たっていないのに
テキスト精度だけではなく、画像生成、動画生成(sora)そして
2025年2月にはChatGPT Pro(月額約3万円)でネット上を検索しまくり
回答する「deep research」も提供するほどに進化しています。
(本記事のDeepSeekではありませんのでご注意ください)
deep researchには正直ビビりました。
おそらくこれを一度味わった方は、もう今までの検索エンジン利用に
戻れないくらい人間をダメにする道具の予感を感じたかもしれません。
非常に込み入った複雑なことを調べるために、一旦deep researchに理解させると
自分なら数日から月単位でかかりそうなことを5分くらい調べまくったのち、
おそろしく緻密に正確な論文風に知りたいことを具体的に教えてくれました。
(調べている様子もわかります、超爆速ですが)
2022年末当時のChatGPTは赤ちゃんで、今は聡明で思慮深い大人に成長した
くらいに驚きました。この先どうなるんだろう?とも。
で、話を戻します。
メルマガ読者様ご質問の回答を言うと、
「その1000万円AIツールも今日か明日には上書きされ陳腐化するか使えなくなると思います」
です。
イマドキ、国内で社内開発エンジニアだけで足りず外部のエンジニアを使って
例えば合計5名くらいのチームを組んだとしても、人件費だけではないので
2か月~3か月以内で1000万円くらいの費用は消費すると想像できます。
なんらかの要件を整理したり基本的な機能を固めている間に
つまりまだ何もできていないままあっという間に消費する金額レベルです。
それよりも少人数でシコシコ開発しリリースしたAIツールなら、その機能よりも
リリース後のバグ対策やメンテナンスをどれくらい保証しているのかを確認すべきでしょう。
現存するAIツールはあっという間に古くなり他に上書き(=置き換わる)される運命なので、
他のツールが登場したらどうするのか?をしっかり考えて上書きされた後でもサポートなりで
充実するというのならわかります。
またAIのアルゴリズムから作り始められる体力のある企業は国内にはそうそういないはずです。
ほぼ全てのツールがAPI(Application Programming Interface)を通じてアルゴリズムを使っている
ソフトウェアだけで出来たただのアプリに過ぎません。
AIで根っこから何かを始めるのは金食い虫を承知でそうすることになります。
NvidiaのGPU何万個も使い消費電力も食いますが、ChatGPTのようなものは最低でも
数億ドル(数百億円)の投資が必要とされました。
DeepSeekが証明したこと
今起こっていること、おそらくこれからも続くのは
AIインフラ投資
がMicrosoft(OpenAI)、Meta、Googleなどのハイパースケーラーを中心に進むということ。
ここに飛び込んできたニュースがDeepSeek(正しくはDeepSeek R1)ですが、
それでも投資は続いています。
DeepSeekは、LLM(大規模言語モデル)のようなAI基盤をこれまでよりも、
桁違いの安いコストで作れることをアピールしています。
しかしそれだけではありません。
もっとはるかに重要な未来のあるべき姿を示唆しています。
OpenAIが提供するChatGPTはクローズドなLLMです。
一方で中国発のDeepSeekはオープンなLLMとして提供を始めたのです。
オープンとはローカルなサーバーで管理できるということでもあり、
中国にあるサーバーでDeepSeekを走らせる必要はないという意味でもあります。
そのことによりDeepSeekが証明したことを考えると;
- オープンなAIがクローズドなAIに勝つかもしれない可能性を示唆
- AIのコモディティ化(低価格な一般品)が進む未来を示唆
しているのではないかと思います。
OpenAIのサム・アルトマンもChatGPTのオープン化に舵を切るかもしれません。
ともかくはDeepSeek R1が圧倒的に安い計算資源で、優秀なAIを作れるのだ
ということを証明したのだと言えます。
ならばMicrosoft、Meta、Googleが同じことを目指すのかというと必ずしもそうではなく、
強烈に激しいAIインフラ投資を続けているのですが、それはなぜ?
という秘密がこれ(↓)です。
ジェヴォンズのパラドックス(Jevons paradox)
ジェヴォンズとは経済学者の名前です。
AIの性能をどんどんアップするために、NvidiaのGPUが枯渇するほどに引っ張りだこです。
DeepSeekは格落ちのGPUで極端に多くなくても既存の生成AIと同じような性能を出せる、
ということを見せつけました。
しかしGPUの需要は減るどころか増やす方向に相変わらず進んでいます。
MicrosoftのCEO兼会長のサティア・ナデラもこう言っています。
どういう意味?
かを起業家でエンジニアの中島聡さんがPodcastで説明してくれています。
一例として、車の燃費がすごく良くなるとガソリン消費量は減るよね?
という疑問に対して、実はそうはならないという仕組みをわかりやすく解説してくれてます。
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AI開発の効率化とジェボンズのパラドックス - 中島聡のLife is Beautiful - Apple Podcasts
Podcast Episode · 中島聡のLife is Beautiful · 01/29/2025 · 4m
podcasts.apple.com
一般家庭にはAI家電と人型ロボット
先ほど、AIのコモディティ化が進むというDeepSeekの貢献について書きました。
一般家庭においても家電のAI化もじわじわ出てきていますが、
AIの浸透の仕方においてはいろいろな意見があります。
ひとつには、「人間の言葉を理解する家電」の進化です。
この例として、例えばスマホで遠隔で自宅の冷蔵庫に話しかけると
何が入っているか、何が足りないかなどを冷蔵庫自体が調べ、返事をしてくれる、
そんな世界観です。
さほど遠い未来ではなく、しかもコモディティ化が進みやすいので
どんどん便利なアイテムが出てきては消え、という姿が見えています。
またもうひとつの考え方としてはイーロン・マスクのテスラなんかが取り組んでいる
Optimusのような人型ロボットが家庭に普及するという説もあります。
ホンダのASIMOも似たような考え方かもしれません。
こちらの考え方では、人型ロボットに命令して自宅の家電を操作させる
というようなものですが、庶民には手の届かない高額なもののはずなので
富裕層からですね、始まったとしても。
ただ後者のほうが夢やロマンを感じます。
この話が極端に進んでいった未来のひとつを映画化したものに
ライアン・コズリング主演、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の「ブレードランナー2049」があります。
人間と区別がつかないレプリカント(人造人間)と人間との戦い、共存、愛がテーマ。
シュールで退廃的、酸性雨が降りしきる未来のロサンゼルスを舞台に
今の人工知能では持ちえない自我、人格、感情をもち、
汗も涙も血も流すレプリカントですが、中身は人間そっくりの骨格など持つロボットです。
そして、愛し合う。
出発点でもある1982年公開のハリソン・フォード主演のブレードランナーを観たときは
あまり理解できずでしたが、今はこの映画の凄さがひしひしと良く理解でき、
且つ今更ながらに感動しています。
個人的には好き過ぎてブレードランナー2049ともに10回以上は観ています(笑)
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ブレードランナー2049
amzn.to
今、MicrosoftやGoogle、Metaなどが日々やっていることは、
「誰よりも早く人間よりも賢いAIを作る」ための熾烈なスピード競争です。
そのためにNvidiaのGPUチップを可能な限りたくさん購入しようと競争しています。
その人間をはるかに超えた人工知能が登場すると世界はどうなるのか?
さまざまな見解があり、おそらく誰も予想できない未知の領域のように思いますが
さほど遠くない時期に例によってアナログ的にではなく、
『突然』現れそうなところに一抹の不安を感じながら、日々のAIの仕事に携わっている状況です。