この記事では、あまり知られていないAI業界の最新動向を
できるだけわかりやすくお伝えしたいと考えて綴っております。
ムーアの法則破りのNvidia
このAI業界にいないとまず私自身も気づくことのなかった話題でして、
人によっては疑問に感じていたことの解消に繋がる内容です。
ChatGPTによっていきなり「AI」がどなたにとっても
身近に感じられるようになったのはこの1,2年のことです。
AIがここまで急速に発展し浸透してきたのはワケがあります。
AIのその話の前に、一般的なコンピュータ技術をお話する必要があります。
コンピュータ業界では長らくムーアの法則が経験値による予測としても
支持を得てきた歴史があります。
ここでの「ムーアの法則」とは半導体の集積度がだいたい1年半単位で倍になる、
つまりハードウェアの性能がそれだけアップするというような意味合いで
Wikiにもう少し詳しく紹介もされています。
そのハードウェアの進歩に合わせてうまい具合にソフトウェアの進歩が
ちょうど二人三脚のようにマッチして、初めてコンピュータ性能が
ガツン!とアップして体感できるわけです。
この二人三脚という点がミソでして、ハードウェアだけ、または
ソフトウェアだけだとやはり片手落ちで、本来の性能が出し切れません。
AppleのMacbookでは、2021年のM1、その後M2、M3とハードウェアが進化してきましたが
さほどに性能アップを感じられないとの話をよく聞きます。
この理由は、それだけの高性能チップのパフォーマンスを引き出せる
ソフトウェアが存在しないからだと言われております。
AIについてもこのハードウェアとソフトウェアの二人三脚関係において
ハードウェア部分を担ってきた会社が「Nvidia」(エヌビディア)
アメリカの会社であり、なによりGPU(Graphics Processing Unit)
の開発会社としてゲーム用PCなどでは知られている存在です。
GPUはAIにおいてはなくてはならないハードウェア部品のひとつであり、
GoogleやMicrosoft、Meta、テスラなどは鬼のように調達に必死です。
私はその昔、ちょうど日本メーカが半導体凋落を迎えた時期(1990年代前半)
まさにコンピュータのグラフィクス用チップを設計しているエンジニアでして、
Nvidiaという会社が急激にシェアを伸ばし始めたのを危機感とともによく覚えています。
新進のNvidiaの驚くべき戦略や技術を知り、
日本の半導体分野の衰退をその時から予感しておりました。
ここのCEOはジェンスン・フアンという台湾系アメリカ人で
ディズニーの皿洗いもしていたという有名な話もある方です。
ところでなぜにAIにGPUが?
というのは、ChatGPTを始め現代のAIはディープラーニングの結晶であり、
ディープラーニングにはGPUが最適だから。
といっても、どなたも「はぁ?」
となるにきまっています。
ちょっと技術的な話となりますがお付き合いください。
ディープラーニングは、データ入力の「入力層」と
アウトプットを出す「出力層」、そしてその間に
データの特徴量を抽出、保持する「中間層」で成り立ちます。
その「中間層」が1個ではなく、パラレル且つ数珠つなぎに何段も連なっていて
多ければ多いほど複雑なことができるとご理解ください。
ディープラーニングは人間の脳の神経細胞を模した学習方法です。
だから"ニューラルネットワーク"とも呼ばれます。
「中間層」が多いということは人間の場合には、
「非常に賢く学習できて全方位的に深く思考」
できる優等生タイプだと言えます。
主にその「中間層」では演算処理を行うのですが
これは数学でいう「行列演算」となります。
その行列演算を行うのにGPUがとても適している、
というのがGPUが引っ張りだこになっている理由です。
・・・はぁ、と一息ついて続きを話します。
実はここまで本題の前置きとしての話でした。
今、ChatGPT含めて世界トップクラスの企業では
「GPUの争奪戦」がひそかに進んでいます。
これまでコンピュータ業界では、ハードウェアとソフトウェアの
二人三脚で成り立ってきたことを先に述べましたが、
最新のAIニューラルネットワークの世界では、
"ハードウェアの性能だけで、ソフトウェア進歩は追随できなくても大丈夫"
という事実が論文などで示されています。
具体的にはコーネル大学で発表されているGPT-3 paperと呼ばれている論文にあります。
一言で表現すると、ChatGPTをはじめとするLLM(大規模言語モデル)は
ニューラルネットのパラメータを増やせば増やすほど能力が上昇することが書かれているのです。
パラメータを増やすためにはハードウェアの性能をアップするだけでOKで、
ハードウェアとはまさにGPUのことです。
つまりGPUがたくさんあってその数が増えれば増えるほど
生成AIもどんどん性能がアップして、利用者もそのメリットを
すぐに受けられますよ、ということです。
つまりAIニューラルネットワークの世界においては、
ハードウェアとソフトウェアの二人三脚のバランスが崩れてもいける!
という不思議な状態が生まれているのです。
穴を売るな、シャベルを売れ
GPUを提供するNvidiaの登場は、マーケティングの世界でも
しょっちゅう話題になってきました。
マーケティングではよく、
「穴を売るな、シャベルを売れ」
という格言が使われます。
ゴールドラッシュにおいて、金が埋まっている穴を探すのではなく
穴を掘るためのシャベルを売ったほうが儲かるというアイデアと事実
からきている格言ですね。
そのシャベルだけを徹底して売ってきたのがNvidia。
これからしばらくの間は、
シャベルを大量購入した会社がAIを制する
という時代になりそうです。
シャベルとはGPUのことです。