Company
Image is not available
「君の名残りを」
小説レビュー

動乱の平安末期に送り込まれた友恵、武蔵、志郎は愛する者のために抗えない運命に立ち向かう。
巴御前、武蔵坊弁慶、北条義時として。史実とSFが織りなす慟哭の歴史ロマン、浅倉卓弥版"平家物語"

動画付きレビューにしてみた!
オープニング動画をチェック(BGMあり)
Image is not available


この風変りなページを開いていただきありがとうございます。

本ページはLP(Landing Page)の体裁をとっていますが(意図してそうしておりその理由は後ほど)、
何かの商品を紹介しているわけでも、ましてや売り込みでもありません。

ただ、あえて紹介しているとすればある小説そのものになります。

本ページは純粋に、私(KENBO)が個人的に大好きな小説のオリジナルレビューを綴っております。
その小説とは、2004年6月に宝島社から刊行された浅倉卓弥さんの「君の名残を」

「君の名残を」は2006年2月に一度文庫化され、
2022年2月に【新装版】の文庫本(上下)として新たに出版されました。
(※新装版は、登場人物の説明、関係図、フォントの工夫などで一層読みやすくなっています。)


2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の登場人物、そして時代が重なる点など多くあり、
このレビュー記事を「鎌倉殿の13人」にインスパイアされて作成しました。

私は2006年発売の文庫本もすでに何度となく読み返し、
すでに一文一文が隅々まで頭に入っているくらいに詳しいのですが、
書店で表紙デザイン刷新された新装版を発見し、本能的に即買いしました。

君の名残を 新装版

"新装版 君の名残を"を書店で発見→即買い

因みにこちらは最初にリリースされた文庫本。
表紙デザインは新装版も、こちらの朴訥な素描も両方Goodです。
それぞれに味があって、物語の本質を言い当てているからです。

読み込まれボロボロに・・・

なお本ページは、もちろんモバイルフレンドリーでスマホ、タブレット、PCの
いずれでも閲覧可能ですが、見え方が違うので一度は是非PCでご覧になってくださいませ。

最初に:「君の名残を」レビューへの思い

人は人生において音楽、写真、書籍、絵画、映画、ゲーム、食べ物、品物等々、
それがなんであるにしろ、自分にとって大切でかけがえのない
思い出の品物やコンテンツに巡り合うことがあります。

私は少年の頃から、いわゆる本の虫と言ってよいくらい読書は生活の一部でした。
長い夏休みには毎日朝から夕方まで、日の当たる座敷にある柱に背中をもたれかけての読書。

その原資はコツコツ一年分貯めたお小遣いであり、ほぼすべてを文庫本(小説)に費やしておりました。

いつしか「歴史小説」カテゴリーものめり込む分野となっていました。
今でも日本史においてはなぜか源氏物語よりも平家物語のほうに惹かれます。

ただ、高校時代まで住んでいた県内の港に、源義経の銅像があることを
不思議に感じていたものです。(地元なのに知識があまりに無さすぎでした。)

ん?源頼朝からの鎌倉時代の本拠地は、関東のはず。
なんでここに源氏の銅像があるんだろうと無知なままでおりました。

ここは、いまでこそさすがに知っていますが平家滅亡を決定付けた
壇ノ浦の合戦のあったところでした。

源平動乱の平安末期は正直言って面白すぎます。

誰もが知っている平清盛、源頼朝はもとより、『鎌倉殿の13人』主役である北条義時、
そして源義経、清盛の息子である平重盛・宗盛・知盛、北条政子、藤原秀衡、後白河法皇、
・・・源平の戦いより平家の滅亡、没落する平安貴族と新たに台頭した武士たちの生き様などを描き、
作者不詳と言われる平家物語

平家物語は鎌倉時代に成立したとされる軍記物語です。
あの有名な冒頭部分を引用してみましょう。もちろん平家のことを言っております。

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。

1156年の平家勃興となる保元の乱に始まり、1160年源頼朝が伊豆流罪、1185年に壇ノ浦の合戦、
そして1192年頼朝が鎌倉幕府をひらき征夷大将軍となるあたりの、約40年間の中に
エンターテイメントとして捉えても面白すぎる人物、出来事がテンコ盛りに詰まっているのです。

と同時に、日本史としては革命的とも言えることが起こりました。

それは。。。

土地が朝廷のもと律令制で縛られていたそれまでの時代から、
御家人制度(将軍と武士との主従関係の契約であり、以降江戸時代まで続く)で担保される
仕組みへの大きな転換点となったことです。

いわば、それまで誰も考えたたことすらない発想があり、
それを現実のものにしたからこそ流罪の頼朝に豪族が競って従ったと言われています。

そしてその知恵を頼朝に授けたのが北条義時。

日本史上の大きな節目、転換点にまたがっているがために、
逆にこの激動の時代を駆け抜けた人々の物語が際立っているのかもしれません。

「君の名残を」は骨太の歴史観を土台にしつつ、現代に生きる若者が「選ばれ」
平安末期に片道切符でタイムスリップし、その時代で生涯を全うする物語です。

このように表現するとなんだか陳腐な物語のように思えるかもしれませんが、
幾重にもドラマチック且つ涙を保証する命題が織り込まれており、
ありがちな歴史小説、ほんわかしたタイムスリップストーリーと決別しているのです。

着想の共通点と違い│「鎌倉殿の13人」と「JIN−仁−」

冒頭に「鎌倉殿の13人」を引き合いに出したこともありますが、
もともと全く違う物語ではあるものの大きな違いを一点。

それと大沢たかおさん主演のTBSの大ヒットドラマとなった「JIN−仁−」を
どうしても連想してしまうので、その点についても触れたいと思います。

「鎌倉殿の13人」の主人公は、小栗旬さん扮する北条義時

頼朝との深い契りを結び、側近として鎌倉幕府の成り立ちに貢献し、
頼朝亡き後は、第2代執権として力を奮った有名な人物ですね。

平家打倒のために立ち上がったのは義時が支える頼朝だけではありません。
この時代を駆け抜けたもう一人の源氏に繋がる人物がいました。

信濃国で挙兵した木曽義仲です。
義仲は宗盛が北陸へ大軍を派遣した際に、火牛の計として知られる
「俱利伽羅峠(くりからとうげ)の戦い」で宗盛軍を圧倒します。

その義仲の愛妾であり戦場においても共に戦った巴御前

「君の名残を」では義仲の妻となる巴御前こそが主人公となり、
彼女を中心とした物語です。

「鎌倉殿の13人」に登場する多くの人物が「君の名残を」でも登場します。
この後の、あらすじで触れたいと思います。

TBSのテレビドラマ「JIN−仁−」を何度見たかわかりません。
テレビではもちろん、その後DVDやAmazon Prime Videoなどでも。

大沢たかおさん扮する現代の脳外科医『南方仁』が江戸時代にタイムスリップ。
なぜ自分はここに?をいつも自問と葛藤のはざまで現代外科医のスキルを発揮しながらも、
どんどんと幕末の動乱時代に巻き込まれていきます。

タイムスリップはしかし、片道切符ではなく最後には現代に戻ってこれます。
そして戻ってこれたことによってこそ幕末時代に過ごした懐かしさ、
慕ってくれた武家の娘である『橘咲(たちばなさき)』との愛、タイムスリップの意味、
自分への許し、それら凝縮された思いが一気に解き放たれます。

この最後のシーンはさらに「JIN−仁−」ファンを増やしたと想像できます。
「ああ、いいドラマだったなぁ・・・」としみじみ感じる終わり方でした。

一方で「君の名残を」のタイムスリップは行ったきりです。片道切符なのです。

それでも大いなる救いと希望があり、実は物語の醍醐味であり厚みを加えています。
後ほど詳しく触れてまいります。

「君の名残を」のあらすじ│ネタばれ保証につき注意

ー 行けども悲しや行きやらぬ
    君の名残をいかにせん

小説の冒頭に出てくる一文です。
この一文は、能の「巴」で謡われる和歌に出てきます。

だいたいの意味は・・・
ー ずいぶんと遠くまで来たけど、やはり残念でなりません。
  一緒に来れなかった愛する人のことが心に浮かんでどうすることもできません。

巴御前の心を綴ったこの冒頭の一文がタイトルでもあり、一切を語っています。

はい、巴御前を主人公とした「君の名残を」は史実とSFを融合し、
よりリアルに人物と時代を蘇らせた平家物語であると同時に
運命に立ち向かう女性の切な過ぎる愛の物語なのです。

平家物語では、巴御前は容顔優れた美女であると同時に
一騎当千のつわものと記述されています。

『巴は色しろうかみながく、容顔誠に美麗なり』と。

学校帰りの夕刻、神社で雨宿りした高校女子剣道部主将の白石友恵と、
幼馴染みで実家が剣道塾を営む同じ高校の男子剣道部主将の原口武蔵、
そこに必然的に吸い寄せられた北村志郎の三人は、同時に平成時代より消えました。

志郎は、友恵の親友で同じ剣道部副主将である由紀の弟。

平安末期という同じ時間軸ながら、三人ともまったく別々の場所にタイムスリップしたのです。

友恵が目覚めたのは、木曽川につらなる『龍神の淵』と呼ばれるところ。
竹刀と由紀からもらった御守りが一緒でした。

動画シーン用のイメージ作例

どこにいるのか?何が起こったのか?
答の出せない疑問が渦巻く中、運命の人物と出会います。

幼名を『駒王丸』
源氏の御曹司として、平清盛から逃れた一人で
木曽山中に源氏を応援する豪族に匿われていました。

駒王丸と過ごすうちやがて、友恵は自分が「ともえ=巴
と呼ばれていたことに気づきます。

元服後、駒王丸は「木曾義仲」を名乗ります。

自分自身が歴史で聞きかじったことのある
巴御前であることを自覚し、いつしか自然に
義仲の愛を受け入れることになります。

駒王丸の世話をする「桔梗」(駒王丸の実母)達に囲まれ
やがて義仲との間に「義高」が生まれます。

巴は駒王丸がやがて義仲を名乗ることも
分かっていましたが、聞きかじったおぼろげな
記憶があり、戦慄します。

義仲がどうなったか、その運命を授業を通じ知っていたのです。
…確か、源義経に討たれたのではなかったか。

もし自分が巴御前としてこの時代に生きていく定めならば、
義仲を絶対にそうはさせない。。。
必ず守ってみせる。。。と決意します。

原口武蔵は京都の北方面、奥深い山中に放り出されました。

ふらつきながらも7日目に、身寄りのないたくさんの子供たちを集めた破れ寺の住職と出会い、
足りない力仕事を手伝いながら、少しずつ子供たちに慕われる存在となっていきます。

武蔵坊弁慶
動画シーン作成用のモチーフ(左から右へ作業)

しかし、その奥深い山にも平家の源氏残党狩り(=駒王丸探し)が及ぶことになり、
武蔵が守ろうとするも多勢に無勢で、罪の無い子供たちも次々犠牲になります。

悲惨な経験を心に刻み京に向かった武蔵はある夜、五条の橋で少年に戦いを挑まれます。
この少年は「牛若」と名乗り、長ずれば出家を条件に平家の監視下にありました。

牛若は元服し、源九郎義経と名乗ることになりました。
しかし元服は出家という約束と違うため、鞍馬にいられず
奥州の藤原秀衡を頼ることになったのです。
もちろん武蔵と一緒です。

武蔵もやがて武蔵坊弁慶と呼ばれるに至り、自分がこの時代に
繋ぎとめられているいることを受け入れます。

ただ、武蔵もぬぐえない幻影を抱えていました。

武蔵坊弁慶の死に様です。
立往生と言われており、矢衾(やぶすま)となり立ったまま息絶える。。。
その幻影がときおり夢にも現れていました。

13歳の北村志郎だけは、友恵や武蔵とは違った意味で時空を超えてきました。
志郎は友恵と武蔵が雨宿りする神社へ、なぜかそこに行かねばという思いが強く沸き、
雨脚の強くなったなかで自転車をこぎ向かいます。

実は志郎は友恵、武蔵がもともと現代に生を受けたのと違って、
平安時代に生まれ幼児のころ一旦現代へ送り込まれ、今再び平安時代に戻されたのです。

北条時政の四男である四郎は幼い頃、神隠しに会い行方知らずとなっていました。
そのことで自分を責め続けていた姉の北条政子が見つけ、志郎はこの時代に
あらためて四郎と呼ばれ、やがてあの有名な人物になるのです。

「鎌倉殿の13人」の主人公のあの北条義時です。

本ページで平安から鎌倉へ時代交代において、律令制から御家人制度へ
大きく変わったことを述べました。

その誰も思いつかない着想を頼朝に授けたのが北条義時

「君の名残を」では義時は志郎であり、四郎。
当時には存在しない視点を現代の感覚をもった人間だからこそ着想できたのです。

実は「君の名残を」では友恵も武蔵もそれぞれに、
物語に厚みを加えるうえで小さくない役割を果たしています。
それは、現代の剣術でもある剣道を通じた武術に関係します。

刀を単に振り回していた時代に、その後800年間におよび蓄積され洗練された武術を
当時の人々へ伝授し、影響力をもったことです。

因みに、こちらのレビュー用に作ったロゴ。
左端は、武蔵坊弁慶
右端は、巴御前
そして中央は・・・・

北条義時ではなく、木曾義仲です!

物語はここから一気に加速します。

栄華を極めた平清盛は後白河法皇との仲が疎遠になり、
長男重盛の急死、やがて法皇を鳥羽殿へ幽閉、そして・・・
「入道清盛倒るる」清盛も亡くなり・・・

歴史上も有名な数々の源平合戦に突入していきます。

このきっかけは「鎌倉殿の13人」にも登場する以仁王(もちひとおう)の檄文です。
以仁王は、後白河法皇の第二皇子ですが清盛の策謀により帝位につけなかったのです。

平家打倒のために、全国に散らばる源氏勢力を結集し当たらせる檄文。
これを運んだのが源行家であり、遂に義仲も挙兵し進軍を開始します。

道の駅倶利伽羅 源平の郷(石川県)にある「火牛の計」像

木曾義仲が平家を敗退させた最も大きな戦いが、
俱利伽羅峠(くりからとうげ)の戦いです。

平維盛(急死した平重盛の息子、これもり)率いる大軍を倶利伽羅の谷底に落とした戦い。
この勝敗を決めたのは「火牛の計」と呼ばれています。
牛の角に松明を取り付け大軍と見せかけた戦術でした。

余談ながら、私は木曾義仲と巴御前双方に関係する長野県木曾郡木曾町にある
義仲館(YOSHINAKA MUSEUM)へ訪問し、火牛の計を含めて造詣を深めてまいりました。
また石川県にある「道の駅倶利伽羅 源平の郷」へも足を運んでおります。

「君の名残を」を読むうちに、どうしても行きたくなったのです。
木曾義仲と巴御前の痕跡を探しに行ってまいりました。

巴は武蔵と再会するが・・・(動画シーンのモチーフより)

最初の大きなクライマックスがやってきます。
小説では下巻にある「第二部 流転編 粟津の章」に該当します。

義仲と頼朝は同じ源氏なのになぜ争うの?
と思われたかもしれないが、身内で争うのが源氏の常なのでした。
すでに義仲と巴御前の間に生まれた「義高」は人質として頼朝に送られています。

源頼朝の命により、源義経は武蔵坊弁慶とともに木曾義仲を追い詰めていきます。
義仲、巴を含めた七騎は吹雪の中を逃れていきますが離れ離れに。

巴に急激に嫌な予感が膨らんできます。
義仲を絶対に死なせないと決めたのに
平家物語のあの一節が蘇ってきます。

「七騎がうちまでも、巴は討たれざりけり」

・・・つまり、自分以外の残り六騎は討たれたということになります。

ここで巴は義経に、つまり義経のそばに付き添う武蔵坊弁慶にも出会うことになります。
最も会いたくなかった状況で、それぞれ時代に名の残った名前で再会するのです。

ここから先は、イメージしたシーンを動画にしましたので
後ほど紹介させていただきます。

下関市にある銅像│写っている橋は関門橋で北九州市を結びます

1185年(寿永4年/元暦2年)3月24日に平家滅亡を決定付けた「壇ノ浦の合戦」

源義経 VS 平宗盛・平知盛となる水軍が潮の速い関門海峡で戦いました。
平清盛の孫で当時6歳の安徳天皇と、二位の尼(=清盛の妻)が
「三種の神器」のひとつをもって入水したと伝えられています。

まだまだ!
この先に最後のクライマックスが続きます。
平泉にてそれまで義経を庇護していた藤原秀衡が儚くなり、
息子の藤原泰衡は頼朝の圧力に屈して義経を襲うのです。

義経、武蔵坊弁慶、巴御前が再び相まみえるクライマックスでもあり、
武蔵坊弁慶は己の死を通じ、何もかも、自分が何者かも理解するのです。

ここもイメージしたシーンを動画にしましたので
後ほど紹介させていただきます。

「文覚」(もんがく)という僧侶がこの物語でのあらゆる場面で重要な役割を果たします。
「鎌倉殿の13人」でも怪僧として登場するので思わずニヤッとしましたが、
「君の名残を」では出自からしてまったく異なります。

また、タイムスリップが偶然ではなく、そこにしっかりした必然性を与え、
物語全体のロジックを支えるうえでも重要な役割を担うのが文覚。

眉に傷のある不気味な僧侶、文覚は時に「覚明」(かくみょう)とも名乗っています。

失意で彷徨う巴を呼び止める覚明(動画シーンのモチーフ)

「君の名残を」の底辺に流れるのは、歴史があるべき歴史として
流れていこうとする、人を超えた何らかの存在とその意思です。

人智を超えたその存在をこの小説では「時」と称しています。

「時」の意思が、現代の私たちが知る歴史通りに動かそうとして
友恵、武蔵、志郎の三人を選び平安末期に呼び込んだのです。

文覚、すなわち覚明は「時の使い」として、
時を動かすために必要な人、必要な場所へ現れます。

友恵(巴御前)、武蔵(武蔵坊弁慶)、志郎(北条義時)だけでなく、
平清盛、北条政子に影響を与える預言者としても出没しました。

文覚、もともとは盛遠(もりとお)という名の強盗団の一味でした。
残虐の限りを尽くしながら、かすかに芽生えた普通の生活に戻るチャンスを
剝ぎ取られ凄絶な生き様となり、罪を償うため時の使いとしての使命を与えられたのです。

「君の名残を」はドラマ「JIN−仁−」と違って、
片道切符のタイムスリップだとお話しました。

であるならば、友恵も武蔵も過去の時代に生き、そこで果てた。。。
という形のまま物語を結ぶのか。
。。。そうではありません。

友恵の親友、由紀に赤ちゃんが生まれ・・・(動画シーンのモチーフ)

この物語が単なるSF歴史小説と異なり、重層的な深みに加え、
救いと希望をもたらしている秘密があるのです。

歴史があるべき歴史として流れることに、そこに抗いながらも
結果的にそのために働いてくれた巴に「時」が語りかけます。
・・・覚明の口を通じて。

『そなたは男に(=木曾義仲)に不可欠な存在だった。
 男は世が動くために必要な存在だった。』

この先は、後ほど動画とともに説明します。

友恵(巴)、武蔵(武蔵坊弁慶)そして木曾義仲、
友恵の親友である由紀と生まれた赤ちゃん・・・

これらすべての関係が解き明かされますが、作者は意図して触れていません。
ただ、俯瞰的に物語を眺めるとその何重にも秘められた意味がわかります。

そこに読者の涙を保証する、何ともいえない味わいの深さを感じています。

「君の名残を」頭にこびりつくシーンを動画化

動画といっても、『動く紙芝居』とご理解ください。
私の脳裏にこびりついてリアルなイメージをもたらすシーンを
何とか映像化できないかと挑戦し、気鋭の若手デザイナーの協力を得て制作。

何年か前になりますが企画から、BGM選曲、動画作成完了まで
何度となく打ち合わせ行い、半年近くかかったのを覚えています。

なんのために???

「君の名残を」に深い特別な思い入れがある人で
私にとってかけがえのない大切な人のために作ったのです。

もともとは一般公開予定はなく、あくまで個人的な目的で始めたのです。

制作した動画を見た瞬間、彼女は泣き崩れました。
私の作った動画の意味を一瞬で理解したからです。

ここまでいくつかメイキングに相当する部分も一部画像でご紹介しました。
全部で6個の紙芝居動画であり、ひとつひとつは3分前後の短いものです。

また動画中に出てくる言葉、セリフは私の創作ではなく、
すべて「君の名残を」からの引用ですのでご承知おきください。

拙いスキルのまま、小説の中の一部シーンを私のイメージのまま絵にしました。
大方の人にとってはそのままでは意味不明だろうと推察します。

ひとつひとつの動画に少しばかり解説も加えました。
半年かけて作った動画、良かったら是非ご覧くださいね!

それから是非、BGMも含めご視聴ください!
ひとつひとつ丁寧に音源を求め、タイミング同期調整にも手をかけておりますゆえ。

因みに、動画はすべてVimeoでの限定公開としております。

剣道練習を終えた友恵は武蔵と学校帰りに古びた祠のある木の下で雨宿り。
雨が激しくなり、禍々しい赤い雷が走ったとき、志郎も含め見知らぬ場所へ・・・

友恵は木曽川にある「龍神の淵」で目覚めます。
そこで出会った『駒王丸』とともに屋敷に戻るまでのイントロシーンです。

現代から過去へ、友恵という女子高生をどう表現するか、
駒王丸という少年のイメージはどんなものか、そしてそこに
木曽川と龍神の淵の透明感をどう演出できるかに腐心しました。

其の二は、いきなり文庫本の下巻も1/3くらい進んだところの描写になります。
其の一からここまで、私たちの知る歴史と重なり数々の出来事があり
いや、圧し潰されるほどの迫力を感じます。

これらすべてを飛ばしていきなりこのシーンから始まります。

平家を京から追い出した義仲へ、頼朝の命により義経が襲い、
そして雪の中、馬の脚がぬかるみにとられた義仲をとうとう追い詰めたのです。

巴は、この場面を聞きかじった平家物語で知っているのです。

「七騎がうちまでも、巴は討たれざりけり・・・」
つまり自分は生き残っても、愛する義仲はそうではない・・・

その矛盾と葛藤に悩まされてきた巴は、絶対に義仲を守ると決めていたにもかかわらず、
まさに習った歴史どおりに事が進もうとするのを目の前にします。

・・・しかし歴史は修正を許しませんでした。

このとき、義経の供をする武蔵坊弁慶(原口武蔵)に巴(友恵)は再会します。


このシーン描写はBGM選曲も、本当に細かいところまで
表現方法を決めるまで時間を要しました。

デザイナーへ何度も修正を依頼した箇所でもあります。

義仲が走馬灯で思い出す巴と過ごした日々、巴への尽きぬ愛と同時に、
巴の張り裂けそうな焦り、悲しみ、怒り、喪失感を表現し
ました。

生きるよすがを失った巴は、ひとり琵琶湖のほとりで静かに暮らします。

毎夜、義仲の生母であり、見知らぬ世界からやってきた巴をなにくれと
世話してくれた桔梗へ宛てたを取り出し読み返します。

文には義仲の遺髪も巻かれています。
思い出だけが後悔とともに蘇り、涙があふれてくるばかりです。

義仲との間に生まれた義高は頼朝の人質として送られ、
頼朝の長女である大姫と仲睦まじく幼少期から過ごしていましたが、
義仲の死とともにこの世を去る運命にありました。

巴の寂しさと喪失感を表すBGMをひたすら探し求めました。

この動画中にBGMで流しているアリアを見つけたときは、これしかない!
と思うほどマッチしていると直感しました。

悲しみに沈む巴は、琵琶湖畔に結んだ庵を出て流浪の日を送ります。
その背中に声をかけたのが「覚明」でした。

「巴殿、巴殿では御座りませぬか」

巴は覚明へ問いただします。
「なぜ私が、私だけがこんな思いをせねばならなかったのか?」

覚明の口を通じて、「時」が語りかけます。

『そなたは男に(=木曾義仲)に不可欠な存在だった。
 男は世が動くために必要な存在だった。』

そして「時」は約束します。

『そなたと男はたとえ幾度生まれ変わろうとも
 そのたびに巡り合い求め合う』

まずはそなたのいとしき者が残したものを証左としてみせよう、

ー 約束しよう。
と。

・・・この「時」と巴との対話こそが大いなる救いであり、
現代と過去を結ぶこの物語の登場人物関係に光を当てることになります。
(其の五、其の六の動画が秘密を明かします。)

巴は、時が約束した証左のひとつに出会います。

人質になった「義高」に親しくしてくれた幼い「大姫」と出会うのです。
大姫は頼朝と北条政子との間の娘。
「義高」は義仲が討たれた後、自分がどうなるかの運命も理解していました。

「大姫」はいかに義高が自分を可愛がってくれたか、
そして果てる前に「祝言」を挙げてくれたことなど切々と巴に訴えたのでした。

「姫様で、よかった ー」
巴は自分が義高となり大姫を慈しんでいる気持ちになりました。


さて、気力を得た巴は、平成時代の親友由紀にもらった御守りを
埋めて若木を添えて旅立ちます。

この時代における果たすべき最後のミッションに向かったのです。

それは、奥州は藤原泰衡のもとに潜む源義経を倒すこと。
義仲の仇を討つことです。

義仲の仇を討つために平泉向かった巴が義経と決戦し
念願を果たすのですが、その際に義経の家来である
武蔵坊弁慶が手を貸すことになります。

平泉領主であった藤原泰衡に追われ
武蔵が巴を連れて逃げていくシーンを表現しています。

武蔵は深手を負った巴を逃がすため、立ち向かっていきます。

あの有名な、弁慶の立ち往生です。

矢ぶすまで絶命した武蔵の魂が、武蔵自身を見下ろし・・・
そして自分は誰であったのか、この瞬間すべてを思い出します。

友恵の幼馴染でボーイフレンドであった武蔵が
この時代、武蔵坊弁慶であったわけですが、
実は平成の武蔵その人が木曽義仲の生まれ変わりでもあるという
レトリックが小説のなかでは巧みに表現されています。

「時」が巴に約束した通り、未来(=平成時代)においては
武蔵こそが義仲の生まれ変わりであったというレトリックです。

『そなたと男はたとえ幾度生まれ変わろうとも
 そのたびに巡り合い求め合う』
という約束通りに。

いわゆるエピローグにあたるシーンとなります。

友恵の親友であった由紀は、同じ境遇を唯一理解できる友恵の兄、
雄介と心を通わせ、結婚、そして赤ちゃんが誕生します。

由紀はその赤ん坊に「友枝」と名付けます。

そしてふと思い出します。
友恵が消えた場所で、とてもとても古びた御守を見つけたことを。
そして驚きました。これは、自分が友恵にあげた御守ではないかと。
そんなはずはないけど確かにこれは自分があげたもの。

この御守ですが、動画「其の一」で平安末期に竹刀とともに飛ばされ、
動画「其の四」で巴が若木の下に埋めたものでした。

その若木が成長し、800年以上の齢を経て大木となり、
友恵と武蔵が雨宿りした場所でもあったわけです。

友恵は巴として平安末期に生き、
そして現代に友枝となって生まれたのです。

由紀は「友枝」を抱いて目だけで語りかけます。

『きっと武蔵君みたいな人と巡り合わせてあげる。
 私が雄介と結ばれたように貴女が出会うべき人は
 必ずこの世界に生を受ける。』

この再生(リボーン)のシーンを赤ちゃんの泣き声、
由紀の語りかけ、御守といったもので表現したいと考え創りました。

補遺

本ページをここまでご覧くださりありがとうございました!
少しでも「君の名残を」にご興味をもっていただけたなら幸いです。

おそらくは、どなたも小説ひとつにここまでこだわり
レビューしているページはご覧になったことが無いはずです。

このレビュー記事はさまざまな意図のもとに制作しました。

  • 小説レビューをLPで表現するとどう見えるか試してみたかった。
  • レビューでは誰よりも詳しく徹底的に書いてみたいと思った。
  • 愛用しているLP制作ツール「LPtools」の表現可能性を追求してみた。
  • 作者である浅倉卓也さんへ敬意を表したかった。
  • LPを使うこの表現方法が誰かの参考になる可能性があると思った。

前記にて何度もLP(Landing Page)という単語を用いています。

少しだけこのページの作り方に関して、ご興味ある方向けに技術面に触れますと;
WordPressを使い、そこに固有のテーマ(ACTIONというテーマ利用)の下、
LPtoolsというプラグインツールでLPを実現しています。

そして100%、WordPressではブロックエディター(Gutenberg)により編集しております。

テーマとプラグインとの競合問題が発生しないか、WordPress最新バージョンでの
適合性も問題ないかを確かめながら、ページに集中できるLPスタイルにこだわりました。

結果として、本ページを通じ様々な表現の自由度と安定性を確認できました。
要するに、WordPressテーマ(ACTION)とLP制作ツールであるLPtoolsの
両方のメリットをそのまま不自由なく活かせることがわかりました。

もうひとつ意図を付け加えるなら、動画を捧げた人に
「君の名残を」集大成として見てもらいたかったからです。

ところで浅倉卓也さんと言えば、2002年「四日間の奇跡」で
第1回「このミステリーがすごい」大賞(金賞)を受賞されています。

ただ私はやはりこの「君の名残を」がイチオシです。
浅倉卓也さんの気合いの入れ方がまるで違うのを以下のコメントからも読み取れます。

特にこの作品は十年来温めていたアイディアでしたから、
デビューから時を経ずして形にできた時には感慨もひとしおでした。
本編の構想が頭にあったからこそ、僕は小説を書くことを諦めたくなかったのだ
と言ってもさほど過言ではありません。

浅倉卓也さん、ありがとうございます!
浅倉さんのおかげで動画レビューの着想を得ました。
言葉がビジュアルイメージを生むという経験をさせていただきました!

またタレントの松嶋尚美さんが「推薦の言葉」として寄稿していた一言が
シンプルにして分かりやすく、且つとてもインパクトがあるのでご紹介します。

この本を読んで、そこらじゅうで泣きました。

そして、ふと、自分の周りにいる人が、もしかしたら前世では
とても深い縁があった人なのかな~なんて思ったりしました。

「君の名残を」はあなたにとって大切なご家族や友人、あるいは恋人との縁を
温かい心でかけがえのないものと見つめ直すきっかけを与えてくれるかもしれません。

※なおもしご感想等をいただける場合は、フッター右に設置した
『KENBOへのお問合せ・ご感想はこちら』よりご連絡ください。

※本ページ(=「君の名残を」レビュー)作成のための参考文献など

「君の名残を」浅倉卓也 2006年(宝島社)
・「平家物語」石母田正 1986年(岩波書店)
・「能・狂言事典」西野春雄・羽田昶 編集委員(平凡社)
能「巴」~the 能.comより
木曽義仲 「朝日将軍」と称えられた源氏の豪将 (PHP文庫)
「巴御前」鈴木 輝一郎 2004年(角川書店)
・義仲館(YOSHINAKA MUSEUM)展示資料
NHK2022年 大河ドラマ「鎌倉殿の13人(完全読本)」(産経新聞出版)
「承久の乱~日本史のターニングポイント~」(文春新書)